ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間
第一印象は、極めて薄いものだった。
『杉下右京は人材の墓場』
いつしか言われ始めて、そしてどれくらいの月日が流れただろう。
そう。この特命係に配属された者は例外なく
ここを去っていった。
だが、それを悔やんだことや悲しんだことは一度もない。
ただ自分は、自分の信念に基づき思うように動くだけ。
相手が何をしようと、それは彼らの意志なのだから。
私はただそれを、見ていることしかできない。
だからあの時も、脳裏によぎった言葉はひとつだけ。
『ああ、またか』
期待することもなく、情けをかけることもなく。
このような場所では、同情も不要。
そんなものは、単に空しいものでしかない。
『今日からここの配属になる亀山薫です』
ぶっきらぼうな挨拶に、適当なお辞儀。
だけど、顔を上げて目が合った瞬間
他の者とは違う何かを感じた。
瞳の奥にひそんでいる、その執念を。
野望を押し殺した、獣の瞳。
忘れかけていた何かが
頭の中で弾けたような気がした。
今思えば、キミのあの瞳を見た瞬間から
あの偶然かもしれなかった瞬間から
僕はキミに惹かれ始めていたのかもしれませんね。>next
>top