ごほうび。

「くぅ〜ん....」

桐本家の玄関を開けると
ラブがお行儀よく座っていた。
「ひとりでお留守番していてくれたのですね」
右京はラブの前にしゃがむと、優しくその頭を撫でてあげた。


桐本雅子が捜査一課に連行されたその日の夕方。
色んな出来事が一気に襲いかかり不安定になっている彼女の
心配事を少しでもなくすために
これから家にひとりで居る事が多くなるであろうラブの面倒を
右京の気転で特命係がみる事になったのだ。


ラブは心地が良いのか、うっとりとした瞳をしながら
右京の手のひらに頭をあずけている。
彼の仕種を見ていると、こう見えて意外にも犬が好きなんだなぁと
亀山はしみじみと実感する。
ひとしきり誉めてやったあとそのままラブを抱き上げ、右京はこちらを振り向いた。
「それでは亀山君。頼みましたよ」
「え.....。え!?」
突然話を振られた亀山は、ただ目を白黒させるばかりだ。
「何の話です?」
「ラブの世話をする話です」
「は!?」
思い掛けない言葉にすっとんきょうな声をあげる。

だいたい、初めに『ラブの面倒をみる』と言い出したのは右京のほうだ。
だからてっきり彼が自分で面倒をみるものだと思い込んでいたのに。

しかし当の本人は気にする様子もなく
いつもの調子で話を続ける。
「僕は、キミが適任だと思ったんですが....」
「ちょっと待ってくださいよ。ウチのマンション、ペット禁止なんスよ?
 この前話したじゃないですか」
「それは僕のマンションでも同じです。
 ですが『犬を飼いたいのに飼わせてもらえない。隣の人は内緒で猫を飼っているのに』と
 散々こぼしていたのは、つい2、3日前のことではありませんでしたか?」
「うっ。そりゃ、言いましたケド......」
「良い機会じゃありませんか。犬、飼ってみたかったんでしょう?」
「うぅ.......」
弱いところを突かれて言い淀んだ。
確かに飼ってみたいという気持ちがあるのは本当なのだが
しかしその後の美和子の顔が浮かんでくるのだ。

どうしよう。

ちらりと右京のほうを見ると、抱きかかえられたラブがじっとこっちを見ていた。
ラブはこれから自分の身に起ころうとしていることが解っているのか
その瞳は、何かを訴えているようにすら見える。





瞳が....離せなかった。







そのかわいらしい瞳が、じっと見つめるから.....。








(どうする?アイ●ル〜♪)
なんて、どっかのCMのフレ−ズが頭ン中をよぎったりしたりして。









「わかりました!この亀山薫にどど−んとおまかせくださいっ!!」
「キミならそう言ってくれると思っていましたよ。
 では、お願いします」
亀山の決意に右京は嬉しそうに微笑みながら
胸に抱いていたラブを彼にそっと渡した。

腕の中にすっぽりとおさまる小さなぬくもりに
愛おしさを感じる。
亀山はラブの頭を撫でてやり、ぎゅっと抱きしめた。
「短い間だけど、よろしくな!ラブ」
ラブはそれに応えるように彼のほっぺたをぺろんと舐めた。


「あれ。でも右京サン、良いんですか?」
「はい?」
「マンションでペットが飼えないのはお互い様だし
 確かに俺、犬を飼ってみたいって言いましたけど...。
 右京サンも飼ってみたいんじゃありません?
 犬、好きそうだし」
短い時間ではあれど、あんなにラブに愛情を注いでやり
また飼い主である雅子とも、犬話であれだけ盛り上がっていたのだ。
飼いたくない、というわけではないだろうに。
ちょっとだけ後ろめたい気持ちがあるのか
申し訳なさそうに顔をあげる亀山に、苦笑した。
「僕のことならおかまいなく。僕ひとりだといささか不安ですし、
 キミのところなら美和子さんもしっかりしていらっしゃるでしょうから。
 それに.........」
「それに?」
「僕がラブにかまってばかりいると、拗ねてしまう大型犬が居ますからねぇ」
「...........?」

あれ、右京サン犬なんか飼ってたっけ....?

思い当たるフシが見当たらず、亀山は首をかしげる。
右京はそんな彼にそっと近寄り、その頭を撫でた。

「おりこうさんにしていたら、後で御褒美をあげますから。
 よろしく頼みますよ」

ふわりと微笑まれて、心臓がドキリと高鳴る。
しかも、御褒美....?


しかしその言葉を頭の中でもう一度繰り替えすと、何かが引っ掛かった。
「....って『犬』って俺のコトですか!?
 ちょ、ちょっと右京サン〜〜!!」
問いただそうにも、彼はすでに玄関の扉を出て行こうとすることろで。
「くっそ〜。よし、こうなったら
 しっかり『御褒美』をねだってやる!!」

小さな犬を抱いた大きな犬は
しっぽを振りながら大好きな御主人のもとへ駆けていった。


2nd19話の中のちょっとしたエピソ−ドを
わたしなりに書いてみましたv
19話はもう、右京サンの犬好きっぷりがたいへん印象的でして。
ラブの話に熱中してしまっている右京サンに
ちょっと拗ねてた亀山クンがこれまたカワイかったのです♪
もちろん、犬が大好きな右京サンは
亀山クンのことも大好きですよね−vv(笑)

つか、途中で遊んでしまって申し訳ない。
書いてると思いだしちゃって、どうしても書きたくなったの某CM。