大都会迷路

見ず知らずの土地でひとりぼっち。
行けども行けどもビルの迷路。
ただ時間だけが、無情にも過ぎていくだけ。

初めて訪れた大都会『東京』。
憧れを抱いていたその地で、亀山薫は途方に暮れていた。

「あ−ちくしょう!やっちまった−」

さまよい始めてかれこれ一時間半。

気負って早めに出発したら、思った以上に早く到着してしまい
時間つぶしと探検がてら、電車に乗らずに歩き始めたのはよかったが。
右をむいても左をむいても、どれも同じ景色に見えてしまい
気付いた時には道に迷ってしまったあとで。
焦って引き返してはみたものの、どこが元の場所だったのかすらわからず
とうとう一歩も動けなくなってしまった。

約束の時間まで、あと30分しかない。

どうしよう...。

行き交う人々の数は、今まで体験したとこのないほどなのに
自分に気を止めてくれる人間など、誰ひとりとしていない。
人ゴミの真ん中で感じる孤独感。
もはやどうして良いのかわからず、亀山は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。


「どうしました?」


頭上から声がして、はっと顔をあげた。
そこに立っていたのは、スーツ姿の小柄な男性。
「えっ!い、いや...あの......」
絶望に陥っていた最中に突然声をかけられ
救いの手のはずなのに、困惑する。
何か言わなければ...と思うほど、気は焦って言葉が空回りする。
男は何も言えずにいる亀山に近付くと、手に握り締めていた紙を黙ってとりあげた。
「あっ!」
焦る亀山は気にせずにに、男は紙に掛れた文字に目を走らせる。
「城東大学法学部.....受験生ですか」
「は...はぁ.......」
声をかけられたのはうれしいが突然の行動に目を白黒させる。
いったいこのヒトは何なんだろう.....。
「試験は....今日ですか。何時からです?」
「えっ!?あ、えと10時ですっ」
なぜかこの何ともいえない迫力(?)に圧されて、つい答えてしまう。
彼は腕時計を睨むと、亀山の受験票を持ったまま背中を向けて歩きだした。
「えっ?ちょ、ちょっと!!」
「こっちです」
「ちょっと!....っ、わけわかんね〜」
しかし受験票を人質にとられては、追い掛けないわけにもいかず。
見た目以上に早足な彼の後ろを必死で駆けていった。


「....あ、あの〜」
数分後。
亀山と謎の男は、そろって車に乗っていた。
タクシーの後部座席に。
どうしてこんな状況になっているんだろう。
だが、試験の時間よりもなりよりも、重要な問題があった。
亀山は、おそるおそる小声で耳打ちする。
「あ...あの....」
「.....はい?」
「お...俺、金持ってないんスけど.....」
田舎から試験のためだけに上京してきたのだ。
ましてや『タクシ−は一番金のかかる乗り物』という固定観念のある彼にとって
今の状況は想像すらしていない事態であった。
あまりに真剣な眼差しで訴えてくる亀山に、男は軽く頬を緩めた。
(あ.....)
その一瞬の微笑に、小さく心臓が鳴った。
それまで堅いというか、少し恐いイメ−ジすら抱いていたのに
それがふわりと吹き飛んだ感じだ。
「お金のことなら御心配なく。僕もそこへ向かう途中でしたから。
 まぁ言葉は悪いですが『ついで』というやつですよ」
「は、はぁ....」
男はそれだけ言うと、前方の景色に目を向ける。
気が付くとその横顔を見つめている自分がいて、亀山もふいと目をそらす。
よく考えたら、こんなにも親切にしてもらっているのに
『恐い』とか思ったら失礼だよな...と、少し反省しながら。
でも、なんとなく、また彼の笑顔が見たくて
ちらりちらりと、横顔を伺っていた。

タクシ−は20分ほどかけて街をすり抜け
やがて郊外にある広い敷地へと辿り着いた。
ゆとりのある大きな建物には、目的地を示す大きな文字が見える。
校門の前で止まると、ふたりは同時に降り立った。
亀山は改めて男に向き直ると、深々とおじぎをした。
「あ、ありがとうございましたッ!タクシ−代まで出してもらっちゃって」
「いえ。気にすることはありませんよ。人助けは、警察官の仕事でもありますから」
「えっ!?おまわりさんだったんですか!!!??」
「おまわりさん...ではないですが....。あ、早くしないと、試験が始まってしまいますよ?」
「うわっ、いけねっ!!!」
腕時計で時間を確かめて、慌てて大学の坂を登りはじめる。
もう一度、途中で振り返っておじぎをして、気を引き締めてまた走り出した。



「あ、あの時のって、右京サンだったんだ......」
「.......はい?」
警視庁・生活安全部・特命係。
隅に追いやられたこの部屋で、何も無い机に肘をつきながら
亀山はふと、顔をあげた。
右京は口をつけようとしたカップを持つ手を止めて、亀山の呟きに耳を傾ける。
「僕が、どうかしましたか?」
「あ、いえ。ちょっと昔のコトを思いだしまして」
「昔...ですか」
「大学受験の時に道に迷って。
 見ず知らずの土地で彷徨ってた俺を、親切にも大学まで送ってくれたヒトがいましてね?
 今思うと、あれ、右京サンだったのかな....な〜んて」
「おや、今頃気付いたんですか?」
「ええ、今頃。........って、えええええええ!!!!?????」
しれっと紅茶をすする右京の顔を、まじまじと見つめる。
「って、ちょっ、右京サン!もしかして、気付いてたんですか−!?」
「ええ。キミが警視庁に来て捜査一課に配属された時から、気付いていましたよ?」
「ウソ。信じらんね.......」
一気に気が抜けて、へなへなと机に倒れ込む。
「...気付いてたなら、教えてくれたっていいじゃないッスか」
「わざわざ言うようなコトでもないでしょう。部署も違うのに」
「....そりゃそうッスけど。あ−あ、なんか気抜けたなぁ....」
右京はカップを手にしたまま亀山の隣に立ち、机にもたれかかる。
一口すすって、そして淡い記憶を呼び起こすように、ゆっくりと息を吐いた。
「でも、キミを見つけた時は嬉しかったですよ?
 あの時のキミが、こんなにも成長したんだなって」
「そりゃ俺だって。あの時のおまわりさんに憧れて、あの日の面接で
 『将来の夢は警察官になることですっ!』って言ったくらいですから♪」
将来さえ決めた、運命の出逢い。
あの時貴方に出逢っていなければ、今ここにこうしていることもなかったのだろうか。
「僕の人助けも、あながち無駄にはならなかったようですしね」
「ええ。こうして無事に大学も卒業して、立派な部下に成長しましたからv」
「.....ま、考えておきましょ」
「あ、ヒデェ」

この広い迷路の中で、あなただけに出逢えたこと。
運命のいたずらがもたらした、素敵な奇跡。
どこに居ても、あなただけを見つけるから。


『東●ラブス●−リ−企画(違)』開催おめでとうございますvv
『相棒』で、こんな素敵な企画が拝めるとは、嬉しい限りです。
そしてずうずうしくも、参加させていただきましたv
ベタベタなお約束ネタですが(お約束大好き人間)
亀山クンと右京サンは、どんなコトがあっても運命の紅い綱に縛られているコトでしょう♪
(ホメてんのだかケナシてんのだか)
naoサン、お誘いありがとうございましたvv

                       20030422(微妙に遅刻) 睦月あんな 拝。


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nao.y様の素敵相棒サイト『Price of the noise』にて開催された
『チャット企画・あの日あの時あの場所で〜過去回想編〜』というものに
お誘いをいただきまして、書かせていただいたモノです。
『特命係のふたりは、実は過去に出逢っていたことがあった!?』
というチャットの話題から派生した企画でした。
他に参加された方々の作品も、これがまた萌えるんですよ〜♪
(しかも蒼々たる豪華メンバ−で...!)
(あの中にわたしなんて居てよかったのかしら.../ドキドキ)
この企画は、現在もnaoサンのサイトにて掲載されているので
気になる方はぜひともチェックしてみてくださいね!