視線キャプション

「ったく。何なんでしょうね、アイツら」
ほのかに紅茶の香りもただよってくる優雅な午後。
右京は、いれたてのダ−ジリンの香りを楽しみながら
このいい気分に水を指すように悪態をつく部下を横目でみた。
彼、亀山薫は、書類も何も無いスッキリした机で頬杖をついている。
今日は別に、これと言って事件もおきてなければ、誰かに雑用を頼まれることもなく。
亀山の気分を害す要因が、さすがの右京にもわからなかった。
ただ、亀山がイライラしているのは、その膝のゆすり具合からも一目瞭然で。
「どうかしたんですか」
余計なコトは一切問わず、話の先を促す。
まあ相手が亀山なら、それだけで勝手に話が進んでいくのだが。
「どうしたもこうしたも。なんで俺たちはな−−−んも用事が無い日まで
 ジロジロ見られてなきゃならないんスかねぇ」
眉間に皺をよせたまま顎をしゃくってみせたのは、入り口の向こう側。
この左遷された部屋には、扉がない。
窓際に追いやられている自分たちに別に興味はないだろうに
なぜか扉の向こうの人間は、いつも不粋な視線をこちらへとやる。
でもそれは、今さら始まったコトではない。
『特命係』に配属されてすでに半年が経つ亀山にも、そのコトはわかっているだろうに。
「それは今に始まったことではないでしょう?それに、もしこの部屋に扉をつけたら
 雑用すらココには回って来なくなりますよ」
「そんなコトくらいわかってますよ!だけど、アイツらの視線が」
ジロッと扉の外を亀山が睨むと、目を合わせたく無いのか単に亀山が怖いのか
そそくさと目線を外して各々の机へと慌てて戻る。
「ったく。あの態度も気に入らないっての」
乱暴な音を立てて椅子から立ち上がると、コ−ヒ−を入れるためにサ−バ−に近寄る。
右京はさして気にとめている様子もなく、涼し気な顔で紅茶をすすっている。
「...右京サンは、気にならないんスか?アレ」
「いちいち気にしてても、仕方ないでしょう?関係ないですよ。僕らには」
「だけど...」
彼にしてはめずらしく、言葉に覇気がなくなる。
「だけど?」
右京が先を促すと、うつむいたままぼそぼそと呟いた。
「せっかく右京サンと、ふたりきりのチャンスなのに.......」
思いもよらぬ一言に、右京が目をまるくする。
呟いた後に我に返ったのか、ハッと顔をあげるとごまかすように笑った。
「あっ、いや。あはは!な...な〜んちゃって★」
だが右京は笑うこともなく、一瞬ものすごく冷たい視線を窓の向こうの不粋な目へと送る。
「そんなこともないですよ」
「え...?」
右京は空いた手で素早くブラインドを閉めると、
その手を亀山の顎にかけた。
「うっ...」
短いキス。だが、どこか情熱的な。
瞬間何をされたかわからなかったが、相手の顔が離れていって、自分の顔が真っ赤になるのがわかった。
「う・う・右京サン!何するんスかっっっっ! あち−−−−−−っっっっ!!!!」
動揺して後ずさりをして、思わず手にしていたコ−ヒ−を落としてしまった。
コ−ヒ−の染みが、ズボンの裾に広がる。
「ふふっ。まだまだ修行が足りませんね。亀山クン」
くすくすと笑いをこらえながら、右京は胸にしまっている自分のハンカチを亀山に差し出す。
くそ−っと悔しがりながら、むしろ『右京サンのせいだ』と言わんばかりに
右京のハンカチを受け取り思いっきりコ−ヒ−を拭き取る。
「この部屋にも、まだ彼らからの死角になるところはたくさんあるというコトです。
 それに...」
「...それに?」
「もしこの部屋が密室になれる状況であれば、今の程度では、済ませませんよ」
眼鏡の向こうで、怪し気な笑みを浮かべられて
こんどは血の気が引いていくような思いがした。

やっぱり、扉がなくて良かった...。
特命係配属半年にして、ようやく痛感した亀山だった。

調子にのって、右京×薫テイストでした(笑)
はい。わたし的右京サンは攻です。
亀山クンは、ホントは攻になりたい受です。
もしくは騎士になりたかった犬(まんまやん)
もしかして、世間とは逆の道を歩んでいるのかと不安になる今日このごろ。