星屑レストラン

土砂崩れのため足留めをくらってしまい
急遽三ツ星レストランに宿泊することとなった右京たち一行。
いつも事件に遭遇してしまう亀山の生まれつきな不運(?)のせいで
殺人事件に巻き込まれてしまい後味の悪い空気が流れていたが
それも、この素晴らしい星空に心を癒された気分だ。

重かった空気が少しだけ軽くなったと感じたころ
皆は休むために、それぞれの部屋へと足を運んだ。

そこへ向かう途中、最後尾を歩いていた美和子が声をかけた。

「それじゃあたまきさん。わたしの部屋に行きましょうか」

その言葉に全員が足を止めた。
声をかけられたたまきも戸惑っている。

「え?でも...」
「お、おいおいおい!そしたら俺はどうなる.....」

部屋数の都合上、ふたり一部屋を余儀無くされた。
なのであらかじめ、亀山と美和子、そして右京とたまきがそれぞれ同室になることを決めていたのだが
殺人を犯してしまったシェフの気を気づかって、右京はシェフと同室になることを申し出たのだった。
右京は、いっしょに過ごしてやれなかったたまきを気づかっていたのだが...。

「まさか!たまきさんをひとりぽっちにさせる気なんじゃないでしょうね?」
いつもの強い調子で、亀山につっかかる美和子。
さすがの亀山もたじたじになる。
「え。い、いや別に、そんなつもりは」
「あの亀山さん、わたしなら大丈夫だから美和子さんといっしょに....」
たまきも、まさかこうなるとは思ってもみなかったのだろう。
亀山を気づかって必死に声をかける。

美和子はつかつかと亀山に近付き、耳もとで囁いた。
「気ィつかえ!」
「うっ...!」
先程自分が美和子に言った台詞をそのまま言われ、返す言葉もなく。
苦笑いをしながら『どうぞどうぞ♪』と返事を返し、ギャルソンを振り向いた。
「あの〜、そ−ゆ−コトなんで、俺の部屋は........」
「ええ、4名様ということで、きちんと2部屋御用意しております」
「ああ、そうですか〜」
「それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さい」
何も知らないギャルソンは満面の笑みで一礼すると、それではと階下へと去っていった。




「てゆか、2部屋だったら俺はどこで寝ろってんだよ!!」

靴音も消え去ってしまってから、遅いひとりツッコミ。

「薫ちゃんには、とっておきのスペシャルル−ムがあるじゃない」
「あ?とっておき?どうせくだらないコトだろ〜?」
「すんごい良いところだよ−。あたしや右京さんの部屋じゃ絶対味わえない、もう超とっておき!」
「...え、そうなの?」
「寝転んで上を見上げると、そこは一面の星空!
 溢れ落ちてきそうなほどの星も、ぜんぶ独り占めできちゃうんだからv」
「おお! ...って、
ベランダじゃねぇかソコ!!!

「さっ、たまきさん。どうぞどうぞ〜♪」
慌てて振り向けば、美和子はたまきを部屋に招いているところで。
たまきはひとり、申し訳なさそうに亀山を見つめているが。
だが確かに、たまきをひとりにするわけにもいかない気がして。
「あ、どうぞどうぞ。ごゆっくり、お寛いじゃってくださいv」
なんてギャルソンちっくに会釈をする。

やはりここは、困った時の右京サン頼み。
「う、右京さぁ〜ん」
「亀山君。風邪などひかないように充分気を付けてくださいね」
「はい!ありがとうございま........って、えええええ!?右京サ.....」
「それでは、おやすみなさい」
「ちょっ、ちょちょちょ、右京サン!!!」

無情にも、ドアは静かに閉められた。


「....................................」

ひととおり項垂れて、でもやっぱり文句くらい言わせてもらおうと思って
思いっきり美和子の部屋のドアを叩こうと構えたが
叩く前にドアの方が先に開いた。
美和子はドアの隙間からひょっこり顔を出してひとこと。

「オヤスミ」

バタン! ガチャッ★

おまけで、鍵の閉まる音までついてきた。

「...なんで今日は、損な役回りばっかり当たってくるんだよクソッ!!
 もう、絶対高級レストランなんて付き合ってやらないからな−−−−!!!!!」


  
ぐりゅっ! ごろごろごろごろ......


叫んだ直後、今度はお腹が悲鳴をあげだした。

「あっ、イカにも当たった.....かも.....。
 
くそっ.......いか................










「みあ〜げて〜ごらん〜〜〜〜よぞら〜〜のほ〜しよおぉぉぉぉ......」
満天の星空の下。
涙と鼻水まじりの音痴な歌声がか細く響く。
結局亀山はひとりぽっちで、毛布にくるまってベランダにいた。
「はぁ〜。さっきはすんげぇ綺麗に見えた星空も
 どうして今は空しさをさらにそそるだけなんだろ...」
空を見上げては、大きいため息とともにうなだれる。

今頃皆は、あったかい布団でぬくぬくと眠りについているのだろう。
満月が出ていたら、遠吠えとかして邪魔してやったのに。

ぶちぶちと悪態をつきながら、その空しさをやり過ごして居た頃。

屋内の廊下へ続いている扉が、ゆっくりと遠慮がちに空いた。
その音に振り返ると、亀山は目を丸くした。

「やはり、ここからの星空は絶景ですねぇ」
「右京サン...!」

右京は感動のため息をついて、亀山のほうを向いた。
「どうですか。ここの居心地は」
「どうもこうもないッスよ。いくら景色の良いところにいたってね
 こんな寒いところにひとりで居たんじゃ、何の感動も起こらないってことが
 よぉ〜〜っっく解りました!」
「ふふっ。確かに、そのようですねぇ」
「で?わざわざこんなところまでどうしたんですか。こんなところにいちゃ、風邪ひきますよ」
すっかりふてくされて少々皮肉っぽく言う亀山に、右京は苦笑した。
「差し入れを持ってきたんですよ」
「差し入れ?」
右京が差し出したのは、魔法瓶の水筒だった。
「シェフからです」
「シェフから?」
「『自分のために気を使わせてしまって申し訳がない。せめてものお礼です』
 という言葉とともに預かってきました。ス−プですよ」
「.........イカとか入ってませんよ、ねぇ?」
「大丈夫ですよ。僕も作っている様子を、横から拝見させていただきましたから」
「あ、それじゃあ、ありがたくいただきます」

しばらくして、湯気とともに良い香りがあたりに立ちこめる。
カップを両手で包みこんで、ゆっくりとひとくち飲み込んだ。
「はぁ〜。あったまるv」
ほぅっと小さく幸せそうな顔を見せた亀山に微笑んで、そしてもう一度あたりの景色を見回した。
星たちの灯りのおかげでさほど感じないが、山々は暗くひっそりと静まり返っている。
「山中ともなると、さすがに夜は冷えますね...」
寒がってるわけではないのだが、手は無意識のうちに自分の体温を守るように腕をつかむ。
その様子を悟って、亀山はカップを傍に置き
そして被っていた毛布の片側を開いてみせた。
「右京サン。どうぞ♪」


ひとつの毛布にふたりで包まり
お互いに温もりを分け与える。
肩に触れる相手の体温を感じながら、亀山はもう一度空を見上げた。
「ホント凄いですよね。この星の数」
「ええ。東京ではほとんど星を見ることができませんから。
 こうやって改めて見せつけられると、壮大です」
「だけど俺も、普段東京にいる時は星なんて見ようと思ったことないかも」
「皆、自分の足下を掬われないように生きるのに必死ですからねぇ。
 空を見上げる余裕もなくなって、いつしかビルで覆い隠されて」
「あ!もしかしたら」
「...はい?」
「東京じゃ誰からも見てもらなくなって、星が淋しくなって逃げちゃったのかもしれませんね!」

少しロマンティックな亀山の推理に、右京は笑いを漏らした。

2nd新3話パロです−。
本編があまりにギャクで爆笑だったので、こちらもノリはギャグで!
本編でもかなり萌えさせていただいた、部屋割りネタです。
皆の人気者右京サンをめぐって繰り広げられた同室者争奪戦ですが
結局無関係(?)なシェフさんに権利を譲ることで
波風たてない程度にはおさまったわけなのですが...。

え?じゃあたまきサンは、ひとりぽっち?

ひそかに右京vたまきが好きなわたしとしては
薫v美和子カップルがいちゃいちゃしている時に
たまきサンだけひとりぽっちなんてつまんない−!
という思考回路のもと(笑)
やっぱり美和子サンとたまきサンに同室になってもらうことにしました♪

とことん星の巡りが悪すぎる亀山クン(爆笑)

本当は、前半のギャグ部分だけで終わるつもりだったんですが
せっかくのム−ドある星空設定を見逃す手はないと
引き続き薫右のらぶらぶも入れてみましたv
いかがだったでしょう?


翌朝、右京サンの部屋から発見された亀山クンは
美和子サンから壮絶な非難のお言葉を頂戴したのでした。
薫v美和子のケンカが、どんどん幼稚化していく...(苦笑)