信頼

昼休み。

めずらしく右京と亀山は、ふたりそろって昼食をとっていた。
場所は安くてボリュームがあると亀山お墨付きの定食屋。
ふたりは壁際の席で、右京は焼き魚定食を、亀山は唐揚げ定食を、それぞれつついていた。


「ほれにひへも、ひろいははしっふほねぇ?」


「....亀山君。喋るときは口の中のものを飲み込んでからにしてください。聞き取れません」
「あ、ふんまへん」
右京の指摘に素直に頷きながら、茶とともに口の中のものを胃に流し込む。
「ぷはーっ。いやね、『それにしてもヒドい話ですよね』って思って。
 あ、おばちゃん!お茶おかわりー!」
「『ひどい話』...とは?」
茶を注ぎにきた店員に会釈を返しつつ、話の先を促す。
亀山はひとつ唐揚げを口に放りこんで、旨そうな顔で頬張ると
ゴクンと飲み込んでから話を続けた。
「官房長ですよ。小野田サン。
 右京サンを手元に置くためだけに『緊急対策特命係?』を廃止にするなんてメチャクチャすぎますよ。
 15年前のことだって、自分の地位のために右京サンを切り捨てたようなもんでしょ?」
右京は黙って、茶をすすっている。
「小野田サンは勝手すぎます。右京サンの気持ちなんていつもおかまいなしだし。
 右京サンも右京サンですよ!文句のひとつでも言えばいいのに
 甘んじてひとりでず−っと警視庁のすみっこに居るなんて。
 .........って右京サン、聞いてます?」
右京のことで腹をたてているのに、当の本人が涼しげな顔ではまるで意味がない。
右京は湯呑みをゆっくりと置くとようやく口を開いた。
「さっきから聞いていれば、キミは他人のことばかりですねぇ」
「へ?」
「まぁ今回のことは、キミもとばっちりを受けていますからともかくとして。
 ですが、15年前の事件のことでそこまで怒ることはないでしょう?」
「ま...まぁ、そりゃそうですけど.....」
「それは、官房室長にたいして怒っているんですかそれとも
 ..........僕のことを心配してくれているのですか?」
「そんなの決まってるじゃないですか。もちろん、う.....きょ..............」
言い掛けて、自分がとんでもなく恥ずかしい事を口走ろうとしていることに気付いた。
顔が赤くなるのがわかる。
「も、もちろん、官房長に対して怒ってるに決まってるじゃないですかっ!」
あからさまな照れ隠しに、右京は思わず笑いをもらす。
亀山はバツが悪そうにじろっとにらんだ。
「....な、なんですか」
「僕はキミのそういうところも好きですよ」
「なっ!!」
「ですが」
不意打ちの右京の言葉に、耳まで真っ赤にして口をぱくぱくさせる。
そんな亀山におかまいなしに、右京は言葉を続ける。
「僕があのまま引き下がるわけがないでしょう?
 もしあの時僕が本当に特命係でいることを辞めていれば、それこそ彼らの思うツボじゃないですか」
瞳の奥に冷たい炎を見た気がして、今度は背中がぞくっとした。
(このヒトのこーゆーところが、わっかんねーんだよなぁ.....)
「さて、そろそろ行きましょうか」
亀山が食べ終えたことを確認して、右京は湯飲みを置いた。
そうですねと相槌をうちながら同時に席を立つ。
だが。
「うっ....」
「右京サン!?」
立ち上がろうとして、右京が胸を抑えてうずくまった。
顔には苦悶の色が浮かぶ。
「大丈夫ですか?」
「へ...いきです。このくらい」
「やっぱり無茶だったんじゃないっすか?その傷じゃ...」
痛みをこらえながらも、なんとか定食屋をあとにする。
亀山も手際よく会計をすませ、急いで右京のそばへと近寄った。
銃弾を受けた身体は、実はまだ完治していない。
だが早々に無理矢理退院許可を医者からもぎ取った右京だ。
「なんで、そこまでして...」
「人の命がかかっている事件と知って、黙っているわけにはいきません。
 それに、それが僕の知人たちがかかわっているとあればなおさらです」
「もう、右京サ....」
「それに」
身体を支え心配そうに覗き込んでくる亀山の腕に、右京はそっと触れた。
「それに今回は、僕ひとりではありません。
 キミが...いてくれるんでしょう?」
「右京サン....」
「キミが傍にいれくれるならば、僕は僕のままでいられる。何も誰も怖くはない。
 これほど力強いことはありませんよ」
右京の言葉に、亀山は目を丸くした。


頼られることの嬉しさ。
そしてそれと同時にのしかかってきた重大な使命感。


それらを受け入れる覚悟とともに、亀山は大きくしっかりと頷いた。



「さあ、行きますよ」

警察庁へ。

ふたりは再び歩きだした。

お待たせしすぎました5000Hit御礼。露草サンに捧げます。
『酷い目にあっても官房長を嫌いになれない右京サンと納得できない薫ちゃん』
でした。いかがだったでしょう?
ずいぶんと長い間温めていたネタなので少し設定が古いのですが
FIRST SEASON 12話直前のころのお話です。
またもリクエストから微妙にズレてしまっているのかもしれませんが(苦笑)
いつもこんなのでスミマセン...!
わたし的なちいさなこだわりは
銃弾で撃たれた右京サンの傷はまだ完治していないということ。
傷をかばって無理をして歩いている右京サンを
ハラハラしながら見守っている亀山クンという設定に萌えですvv
さりげなくアピ−ル(笑)

露草サン、たいへんお待たせして申し訳ありませんでした!
リクエストありがとうございましたv