パラレル設定な上に、死にネタです。
そういうのが苦手な方や、現在ハイテンションな方は
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気持ちが落ち着いていて、暗い話でも大丈夫な方のみどうぞ。



















白い闇

白い衣装が、闇に栄える。
東京の夜景を統べて、白い彼女は囁いた。

「ねぇ杉下くん。人類は平等だなんて、誰が言ったんだろうね...」



「.........っ!」

かちかちかちかち........。
時計の音と自分の鼓動がやけに耳に響く。
そして徐々にまわりの雑音が大きくなるとともに、意識を取り戻したことに気付く。
右京は自分を落ち着かせるようにゆっくり息を吐き出した。
どうやら知らない間にうたた寝をしてしまっていたようだ。
ちらりと机の上にある時計を見る。
午後4時を少し回っていた。
右京はもう一度ため息をつくと、気分転換にと立ち上がり窓辺に寄る。
なつかしすぎる夢を鮮明に見てしまった。
なぜ今更あのような夢を見たのだろう。
今回の事件とつながるキーワードが、思い起こさせたのだろうか。
先程の夢を辿っていくと、ふと、自分の手が震えていることに気付いた。
「.........................」
大丈夫...。何度も自分に言い聞かせるように同じ言葉を繰り返す。
両手を包み込むように、握りしめた。

 
 『自殺』
         『愛』
                『気の病』


「ただいま帰りましたー

思考がまた昔に戻りかけたとき、亀山の間延びした声で呼び戻された。
それまでの感情は押し殺して、とっさに理性で取り繕う。
「おかえりなさい。いかがでした?」
「どうもこうもないっすよ!」
亀山は今回の事件の鍵を握る女性を訪ねて病院へと行っていた。
『人を殺した』と、ただつぶやき続ける彼女のもとへ。
その真相を知るために。
彼の機嫌の悪さから伺うに、あまり良い収穫はなさそうだ。
「彼女のほうは何か話してくれそうな雰囲気なんですけどね。またあの大学教授が出てきて。
 『妻は気が病んでいるんだ。変な戯言で触発するのはやめたまえ』とか言って。
 むしろあの教授のほうがあやしいですよっ」
「そうですか....」
「くっそー。あのタヌキジジィめ!絶対しっぽ掴んでやる」
悔しそうにうなりながら、拳を自分の手のひらに打ち付ける。
右京はひとつため息をついて、視線をまた窓の外にやった。
どうにも事件に集中できない自分がいる。
今は、事の真相を掴むのが先決なのに。
黙り込んでしまった右京を、亀山は怪訝に感じた。
「右京サン。どうかしました?」
「はい?」
「いや、急に黙り込んじゃうから...」
正直、この事件から手を引きたいとさえ思った。
しかし人の命が関わっている以上、真相を掴まないわけにはいかない。
理性と感情の間で迷いが生じて、右京は戸惑った。
「.....何か、あったんスか?」
一瞬、返答につまった。
「...いえ、何でもありませんよ」
だが、いつものポ−カ−フェイスで感情を押し殺す。
普段通りを装おうために、紅茶を用意しようと思った。
だが、今日の亀山はそれで引き下がらなかった。
いつもの犬並の勘なのか、それほど右京が取り繕えていなかったのか。
「話してもらえませんか?」
「え?」
思いもよらない言葉に振り向いた。
亀山は、真摯な瞳でこちらを見ている。
「俺なんかに話したところで何にもならないでしょうけど、
 でも、話すだけで楽になれることだってあるから......」
無理矢理聞き出そうってわけじゃないですけど。と付け加えながら。
しばらく見つめあうふたり。
だが、あまりの亀山の真剣な瞳に根負けしたのか
右京は苦笑いを浮かべた。
「....気分の良い、話ではないですよ?」
注意を促すと、亀山は覚悟を決めたように頷いた。
一度軽く深呼吸をして、右京もまた、覚悟を決めて口を開いた。
「昔、救いたいと思った女性がいました」
霞んだ霧の向こうの、かすかに見える人物を眺めるように、目を細める。
「....だけど、助けることはできなかった」
「............」
いつにない右京の厳しい顔を見て、ごくりと唾を飲み込んだ。


彼女は大学時代の先輩で、同じサークルの先輩と付き合っていた。
ふたりは深く愛し合っていて、卒業後には結婚すると、約束までしていたくらいで。
彼のほうは就職が決まってからも、今後のふたりの生活のためにと毎日深夜までバイトをしていた。
「卒業も間近。つまり、結婚まであと少しというところで、事件は起きました」
「事件?」
「彼が、バイトの帰りに少年たちの集団に襲われたんです」
「ど、どうして...」
「その日は、給料日だったそうです。おそらく、それを狙っての犯行でしょう」
「.........ヒデェ」
「通りすがりの人に通報されて、すぐに病院に運ばれましたが
 頭を強く殴られていて意識不明の重体。そして」
右京は一度目を閉じて、低く、吐き出すように
「亡くなりました」
呟いた。
一瞬、亀山も息を飲んだ。
「残された彼女は泣き喚きました。無理もありません。
 結婚を間近に控えて、愛する人を突如失ってしまったわけですから」
「それで....!その少年グループってのはどうなったんですか。
 もちろん捕まったんですよねぇっ?」
「えぇ。もちろん逮捕されました。14歳以上の者ばかりでしたから。
 しかし、主犯核だけは逮捕されなかったんですよ」
「なんで!」
「権力者の息子....なんでも警察にも事情が通じるだとかなんとか。
 つまりは、トップが丸め込まれたんですよ」
「そんな....。そんなの、誰も報われないじゃないですか!」
「ええ...。彼女もかなり騒ぎ立てたのですが、それでも結局は警察は動きませんでした。
 そして次第に、彼女はおかしくなっていった......」
「...............」
「しばらくして学校も辞めて、僕も彼女にはしばらく会えませんでした。
 しかし、ある日突然連絡がありました。『会いたい』.....と」


春はすぐそこなのに、まだ寒い日の夜だった。
呼び出されたビルの屋上に彼女は、居た。
すっかり痩せ細ってしまった手足で、フェンスの上に登って腰かけていた。
まさか、と背筋の凍り付く思いがして駆け寄ろうとしたが、
振り向いた彼女の予想以上の穏やかなほほ笑みが、それを拒んだ。
やつれてしまった笑顔。
幸せだった頃の美しさが、なくなっていた。
「キレイだね。夜景」
久し振りに聞いた澄んだ声だけは、あの頃のままで。
彼女はただ景色を楽しんでいるように、あたりを見渡す。
ところどころに、緊急車両の赤色灯が点滅しているのが見えた。
「ねぇ杉下くん。『人類は平等だ』なんて、誰が言ったんだろうね」
「....さぁ、誰だったでしょう。『生きるものはすべて...』という方もいらっしゃいますね」
「あはは。そういえば、そうだね」
彼女を触発してしまわないように穏やかさを保ちつつ返答を返していく。
言葉ひとつにかなりの緊張を抱きながら。
「どうして、アイツが死ななきゃいけなかったのかな。
 何も、悪い事したわけじゃないのに.......」
「............」
「金とって人殺したヤツがのうのうと生きてるのに、なんでアイツだけ」
話題が徐々に確信に迫ってくる。
それに合わせて彼女の感情も高ぶり、声が震えだす。
「あんなヤツら、死んじゃえばいい。『法』がヤツらを裁かないなら、自分で裁くまでよ。
 そうよ。みんなみんな、死んじゃえばいいんだ...」
「美奈子さんっっ!!」
優しかった彼女から想像もつかなかった言葉を聞いて、思わず叫んでいた。
「そういうふうに考えちゃいけない。あなたまで罪に手を染めて、どうするんですか」
「警察なんてもう信じない。いくら『法』が万人のもとに平等に適用されるとしても
 『罪』がなければ執行されないんですもの。だったらわたしが、ヤツらに『罰』を与えてやる...」
「ですが、そんなことをしても何も生み出さないでしょう?
 澤田先輩だって、あなたにそんなことをして欲しいとは思っていないはずです!」
「....そんなこと、どうしてわかるの?孝志はもういないのに」
「..........!」
闇を見つめ続ける彼女の瞳からは、もう光は消えていて。
襲いかかる現実に、返す言葉もなく。

ただ、大切な人のしあわせを、ひたすら願っていただけなのに。
永遠に続くと信じていた。
だから自分は、それを見守ろうと思っていた。
彼女の笑顔を見届けようと。
だが、歯車は突如狂いだした。
あの頃のようなしあわせに包まれた空気は、もうない。
何がいけなかったのだろう。
どうすれば、彼女の笑顔は戻ってくるのだろう。
もう彼女のもとに、『しあわせ』が戻ってくることはないのだろうか...。


知らずと、涙がこぼれた。


「.....それでもあなたには、しあわせになってほしい」
絞り出すように、呟いた。
本当に望んでいることを。
「彼の分まで生きて、彼の果たせなかった分まで、しあわせになってほしいんです....!」
祈りにも似た叫び。
彼女を闇から救い出したくて。
うつむいて、必死に涙をこらえた。

「..........................ゴメンね」

「.....っ!」

彼女の言葉にハッとなって顔をあげた。
「もう、疲れちゃった。考えるのも。生きて行くのも。何もかも。
 だって......、ココには孝志はいないから....」
ちいさく、ちいさく呟いた。
右京は動けなかった。
何も言えなかった。
自分の鼓動がやけにうるさくて、彼女の言葉を聞き逃すまいと
聞いているのに必死で。
「だけどね、...どうしてかな。杉下くんには、見届けてほしかった。わたしたちを。
 本当はひとりでこっそり孝志のところに行こうと思ってたんだけど
 何故か杉下くんのことを思いだして....」
懐かしい思い出を辿るように、天を仰ぐ。
ひやりとした風が、彼女の髪をゆらした。
「.........最期まで、わがままな女で、ゴメンね...」
3人で過ごした日々が、脳裏を駆け巡る。
もう戻ることのない、あの日々。
彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「.....杉下くん」

    
『ありがとう......』


最期の言葉は、風にさらわれた。


気付いた時には
フェンスの上に彼女の姿はなく。
ただ、都会の夜風が駆け抜けるだけだった。
呆然と、遠くの方で人の声を聞きながら
右京はゆっくりと、膝から崩れ落ちた。


「ただ、喚き続ける事しかできませんでした」
「.................」
「結局僕は、彼女を救うどころか、引き止めることすらできなかった....!」
震える両手を握りしめて、自分の額に押し付けた。
あの時助けることができたのは、自分しかいなかったのに。
悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない。
「....そして僕は、警察官になることを決意したんです」
それは、彼女に対する追悼の意なのか。
それとも、自分に対する罪滅ぼしの気持ちなのか。
だけど。
「だけど、あんな思いをするのは、自分だけでかまわない」
歪みは、悲劇しか生まないから。

ゆっくりと、亀山は右京に近付いた。
背後に立って、堅く握りしめられた両手を、自分の手でそっとつつみこむ。
「....俺も、ついていきますから」
「亀山クン....」
「右京サンの背負っているもの、俺にも分けてください」
悲劇は、二度と繰り返してはならない。
決意とともに、手に力をこめる。
その身体を抱きしめながら。
背後と、そして手のひらから伝わるぬくもりに力強さを感じて
肩の力をそっと抜いた。
「........ありがとう」


皆に平等に、しあわせが降り注ぐように....。

4989(四苦八苦)Hit!海都サンに捧げます。
『弱さを必死で隠そうとする右京サンと
 それを嗅ぎ付けちゃうオトコマエなワンちゃん』でした。
.....必死で隠してるか?(書いてから疑問形)
『右京サンの弱さって何だろう』と色々模索しながら追求していくと
辿り着いたのは死にネタでした(泣)
右京サンが警察官になったキッカケと
あそこまで『命の平等さ』に執着する理由も
からめて書ければな〜と....。
ちなみに現在の舞台設定は、連ドラ第2話です。
実は2話、あんま好きじゃないんですケドね(汗)
『精神病』を取り扱った割には、わたし的に『ナメてんのか?』ってな内容だったから...。
(だからレビュ−も未だに書いてなかったり/暴言)

海都サン、リクエストありがとうございましたv
暗いハナシ好き−ズ(爆笑)