境界
「春樹さん....」
彼の名前を呼んで
またひとつ、
彼との境界を越えていく。
普段は、決して馴れ合うことはできない関係。
名前で呼ぶことさえ許されない現実。
幾重にも張られた境界線。
だけどこの時だけは、ここに居る時だけは
その境界を破ることが許される。
ふたりだけに許された、わずかなひととき。
ゆっくり、ゆっくりと、
ひとつづつ境界線を剥いでいく。
身に纏う衣服を床に滑り落として
禁欲的なその空気さえも
剥がしてしまいたくて。
「....哲郎」
ゆっくりすぎる仕種がもどかしかったのか
最後の境界線は、彼のほうから越えてきた。
甘い優しい空気に包まれながら
だけど、心のどこかで
この空気が壊れてしまうことを恐れている。
でも、大丈夫。
貴方が傍に居てくれるのならば
俺は、強くなれるから。
ふたりの周りに張り巡らせた境界は
決して誰にも触れさせない。