鬼
「右京サン....。もう勘弁してくださいよ」
壁にかけられた時計が日付変更線を跨ごうとしている頃。
隣の住人は、もう皆とっくに帰っていった。
現在、部屋にはふたりきり。
「何を言っているんです。夜はまだ、これからですよ」
「無理ですよ。だって....こんな......」
「弱音を吐いても無駄です。今夜はもう、逃がしませんよ...」
低く静かに響く右京の声。
そして亀山のうめき声。
「あ−!もう無理ですって!!今夜中に始末書書くの!!」
「何を言ってるんですか。本当なら〆切りは今日のはずでしょう。
もう日付けは変わってしまいましたから、正確には昨日です」
「うぅ.....」
「今の今まで放っておいたキミが悪い。
書き上げるまで、絶対に帰らせません」
「えぇ−っ!?鬼−−−!!!」
思わず叫んでしまってから、ハッとした。
口を押さえておそるおそる右京のほうを見る。
「..............なにか?」
「いっ、いえ!何でもありません!!
がんばって、書かせていただきますっっ!!!」
「それなら良いんです」
必死に書面に向かう亀山を見て、右京は一口紅茶をすする。
一瞬のぼった極寒のオ−ラの向こうに
本当の鬼が居たかどうかは、口が裂けても言えるわけがなく....。